いろ電話研究所の研究日誌

Grandstream GXP1625 で IPv6 を使う

2022-09-05 12:27
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これまで何度か記事で紹介してきた米国ボストンGrandstream社の SIP電話機、GXP1625(PoE非対応版の GXP1620 も設定は同じ) は IPv6 に対応している。

各社IP電話の設定を紹介するときに、IPv6 を使った設定も試してみたがいままでうまいこと動作しなくて紹介できずにいたが、やっと動作する設定方法が見つかったのでこの記事ではその設定内容を紹介する。

なお一応動作したものの、一部の制限があるのでこの点を先に断っておく。

Grandstream GXP1625 / GXP1620 とは

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GXP1625 は廉価グレードIP電話機で、SIP 2回線を収容できる。価格的には GRP2613 よりちょっと安いくらいで、液晶は白黒。

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この機種も PoE に対応しているので、PoEハブに接続すると配線はスッキリする。リテールパッケイジには ACアダプタも付属していたので、PoEハブが用意できない環境では ACアダプタで利用することもできる。PoE に非対応なのが兄弟機の GXP1620 でその他の機能は GXP1625 と同じ。

Grandstream GXP1625 の設定

管理画面へのログイン方法は以前の記事の中で紹介したので割愛する。

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ネットワーク、BASIC認証(これは誤訳で英語では Basic Settings)へ進む。

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インターネットプロトコルを、双方、IPv6 優先 にする。双方、IPv4 優先でも良さそうだが、こちらを設定すると IPv6 では SIP REGISTER などが動作しなかった。

IPv6アドレスを 静的IP設定 にする。自動設定は DHCPv6 を使う場合に使える。うちのネットワークでは、IPv6 は IPv6 RA になっており、DHCPv6 は使っていないので動作しなかった。(NTT東西ひかり電話の HGW は DHCPv6 に対応しているので、HGW に直接接続した場合は自動設定でも使えるかもしれない)

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静的IP設定(Statically configured)は、全部静的(Full Static)でも接頭文字静的(Prefix Static)のどちらでも動作した。

DNSサーバ1 に、ひかり電話HGW の DHCPv6サーバ払い出し状況 のペイジで確認できる DNSサーバアドレス のアドレスをコピーして入れる。(HGW自身の IPv6アドレスと一致する)

IPv6 接頭文字 (64ビット)は、LAN で使っている IPv6アドレスプレフィックスを入力する。HGW直下であれば、HGW のアドレスの先頭56ビット + 00(この例だと 2400:xxxx:8e0:cb00::/64)になっているはずだが、うちのようにルータを介してる場合は適切なプレフィックスを入力する。

テストを行っているネットワークでは、HGW直下に別のルータがあり、そのルータは HGW から DHCPv6 で割当を受ける。このネットワークは HGW のアドレスの先頭56ビット + f0 (2400:xxxx:8e0:cbf0::/60) をプレフィックスに使っている。

ルータの別のネットワークに GXP1625 が設置してあり、このネットワークには IPv6 RA で HGW のアドレスの先頭56ビット + f1 (2400:xxxx:8e0:cbf1/64) を広告している。

保存して適用をクリックする。

念のため、再起動する。

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状態、ネットワーク状態へ進むと割り当てられた IPv6アドレスが分かる。設定したプレフィックス + 適当な文字列 + MACアドレスの後ろ12bit になっているはずだ。

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アカウント、アカウント1(もしくはアカウント2)、一般設定に進む。

アウトバウンドプロキシに、[HGW の SIPサーバアドレス] を入力する。

保存して適用をクリックする。

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状態、アカウント状態に進むと SIP登録が YES になっていて、SIP REGISTER できていることがわかる。

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ひかり電話HGW の電話設定、内線設定から、登録状態が 登録済み になっており、IPバージョンが IPv6 になっていることが確認できる。

ひかり電話から発信する

以上の設定で、GXP1625 から発着信できるようになっている。

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ひかり電話HGW の通話ログから抜粋。

このログは、上記で紹介した接頭文字静的(Prefix Static)ではなく、全部静的(Full Static)の設定をテストしたときのものなので、表示されている IPv6 アドレスは実際のものと違う。

12 は呼び出しただけなので通話時間ゼロ秒。自切断になっている。

11 は実際に通話も行った。

ちなみに、通話ログに現れる 124.245.0.1 はひかり電話の局舎側の SIPサーバのアドレスで、これはグローバルアドレスではあるものの、各加入者と局舎間の通信だけで使っている実質プライベートアドレスで、実際の SIPサーバのアドレスとは NTT側で NAT されていて加入者のネットワークからは隠蔽されている。

IPv6アドレスの 2001:A7FF:2101:6::F も同様のひかり電話の局舎側の SIPサーバのアドレスだ。このアドレスは他にも、2001:A7FF:2101:1::C2001:A7FF:2101::22001:A7FF:2101:3::F などとつながることもある。このアドレスは IPv6 なので NAT66 ではないかもしれない。

ひかり電話宛はダメ

これでつながって IPv6 でも問題なし、と思ったがテストを進めていくうちに不可解な現象に遭遇した。

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これがその時のひかり電話HGW の通話ログ。

Lala Call や携帯電話など、他社宛に掛けた場合は問題なく呼び出し、通話することができる。

しかし、ひかり電話宛の番号へ通話しようとすると、488 Not Acceptable Here(Incompatible network protocol)が返され、発信することができない。同じ HGW に収容してある内線番号宛も同様のエラーになる。

該当のひかり電話の電話番号へ、携帯電話や Lala Call から発信するとちゃんと呼び出すので先方の問題ではない。

追記:

後日、ひかり電話HGW が突然再起動するなど不安定だったので NTT西日本に相談したところ、ひかり電話HGW が 9年目のもので老朽化も考えられるので交換しましょう、ということになり、ハードウェアをまるほど交換した。

この記事のテストで使っているのは PR-400KI で新しいものは PR-500KI になった。config は PR-400KI から吸い出したものをそのまま PR-500KI に流し込んで使えた。

この新しくなった PR-500KI で同じテストを行ったところ、まったく同じ状況で、ひかり電話宛の番号へ通話しようとした場合、488 Not Acceptable Here(Incompatible network protocol)が返された。

NTT東西が公開している、次世代ネットワークインタフェース資料 (IP通信網) -アプリケーションサーバ・網インタフェース (SNI)- 本編 第1.0 版5.2.3.1. ネットワークプロトコルの不一致 の項目に、

SIP-UA は、送信した INVITE リクエストに対して Warning コード300 (Incompatible network protocol) もしくは 301(Incompatible network address formats)を含む 488 Not Acceptable Here レスポンスを受信する場合があります。
発側の SIP-UA が IPv6 をプロトコルとして用いていた場合、発側の SIP-UA は着側の SIP-UA が IPv4 しか利用できないために SDP のオファーに含まれる IPv6 アドレスを利用できないと解釈して、IPv4 によるフォールバックを試みることが可能です。

とあり、通話しようとした先のひかり電話内線には IPv6 の SIP端末を設置しておらず、仕様通り、この挙動になっていると思われる。

IPv4 の端末から発信した場合は、相手がひかり電話であってもアナログポートを呼び出すのに対して、IPv6 の端末から発信したときはアナログポートでの FXSトランスレートは行われず、エラーとなるようだ。通常であれば、SIP電話機側で IPv4 へフォールバックしてやればいいので、Grandstream GXP1625 がこのひかり電話内線の挙動を想定しておらず、エラーとして終話してしまうのが原因と判明した。

追記終わり。

IPv4 と IPv6 は併用不可

他にも設定して気になった点がある。

インターネットプロトコルを 双方、IPv6 優先 にするように書いたが、これと双方、IPv4 優先、の違いについて。

双方に設定することでインタフェイス自体は IPv6 が有効になり、管理画面などへ IPv6 でもアクセスできるようになる。これはどちらも共通である。

SIP REGISTER の際の SIPヘッダの Contactのアドレスに、優先で設定した方の IPアドレスが使われる。そしてこれは GXP1625全体で共通でアカウントごとに変えられない。

よって、IPv4 を使う SIPアカウント、IPv6 を使う SIPアカウントを共存して使うことができない。

まとめ

現状、IPv6 が使える SIPプロバイダーというのは一般的ではなく、日本国内だとほぼひかり電話HGW しか選択肢がないように思う。この状況で、IPv6 で設定できるメリットが思い当たらない。もちろん、ダイレクトに p2p で通話する場合など、ポート番号の衝突や、細かい NAT超えなどを考えなくて良くなるので、自前で複数の拠点にまたがって内線IP電話網を構築する場合などに IPv6 が使えるメリットはある。

少なくとも、安定して使えるのであればひかり電話内線用のいち設定例として紹介しても良いが、不可解な発信不可の宛先があるなど、問題が解決しなければ常用は難しいと思われる。

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